名称 | トウガラシ色素(パプリカ色素)/paprika color |
---|---|
概要 | 「本品は、トウガラシ(Capsicum annuum L.) の果実から得られた、カプサンチン類を主成分とするものである。食用油脂を含むことがある(第9版食品添加物公定書)」 |
INS No. | 160c |
E No. | E160c |
色調 | 橙~赤褐色 |
染着性 | × |
溶解性(水) | × |
溶解性(油) | 〇 |
耐熱性 | 〇 |
耐光性 | △ |
金属の影響 | なし |
タンパクの影響 | なし |
分類 | 既存添加物/食品添加物公定書 |
特徴 | 水に不溶/耐熱性が強い |
ニチノーカラー | PO-5(液体/油溶性)/パプリカ色素30S(液体/水分散性/R-GP(粉末/水分散性) |
食品への表示例 | トウガラシ色素、パプリカ色素、カプシカム色素、カロチノイド色素、カロテノイド色素、着色料(カロチノイド)、着色料(カロテノイド) |
使用基準 | 本品は以下の食品には使用できません。1.こんぶ類、食肉、豆類、野菜類、わかめ類(これらの加工食品は除く)。2.鮮魚介類(鯨肉は除く)、茶、のり類 |
別名パプリカ色素とも言われるトウガラシ色素の原料は和名がトウガラシ、または世界的にはパプリカとしてよく知られている植物で、ナスの仲間、ナス科トウガラシ属の栽培品種です。パプリカの原種の原産地は中南米ですが、ハンガリーで栽培を続けていたところ辛みがなくなり、現在のパプリカが誕生したとされています。そのため、現在でもハンガリー料理では欠かせない食材です。(下写真はハンガリー料理「Goulash “グーラッシュ”」)
高温を好み、環境への適応性が高いため、スペインやオランダ、ニュージーランド、韓国など様々なところで盛んに栽培されています。日本でも宮城県、熊本県や茨城県で栽培されています。各地域での栽培に適応していく過程で品種化が進み、現在では色が黄色や赤だったり辛みがあるもの、ないものなど90種以上が知られています。また馴染み深い野菜として似た形のピーマンがありますが、実はこれはパプリカの未成熟の実のことを示しています。
トウガラシ色素の主成分は、カロテノイドの一種であるカプサンチンに脂肪酸がエステル結合した構造を持っています。ちなみに辛み成分カプサイシンとは別の成分です。色調は橙色~赤褐色で、他の天然色素にはあまり見られない特徴がある色調を示します。
和名ではトウガラシ色素とされているので辛みのある色素というイメージを持たれることもありますが、辛みがない品種のパプリカを使用しているため基本的には辛みはありません。但し一般的な抽出方法では独特の風味が残るため、色素メーカーでは超臨界抽出など各種の脱臭技術を用いて風味の元になる香り成分を除去したものを作っています。
天然色素の中では比較的国際的にも知名度が高く、使用できる国も多い色素です。トウガラシ色素独特の規格表示として、色価の他にCV、SCU、CUなどで表される濃度表示があります。これはトウガラシ色素が各地で着色料として使われており、主に貿易取引のために独自に規格化されていたことを示します。EOA、ASTAなどの表示法もありますが、国際的にはMSD-10と呼ばれる方法が用いられています。MSD-10法では従来の色価からの換算が可能で、CV=1が色価(E10%cm)の1/66であるという関係があります。つまり色価1,515のトウガラシ色素のCVは10,000になります。
また近年では色素としての用途以外に抗酸化成分や血中脂質改善作用などの機能性の報告もあり、機能性食品素材としても注目されています。
トウガラシ色素は比較的耐熱性が強い一方で耐光性はあまり強くありません。しかしながらトコフェロールなどの抗酸化剤を添加することで改善することが知られています。またアントシアニン系の色素とは異なりpHの影響は受けません。油溶性で油脂との馴染みがよいため、マーガリンやチリソース、チョコレートの着色に使用されています。
またトウガラシ色素を乳化して水に分散させたタイプの色素製剤は唐揚げ粉や水産加工品、キムチ、中華麺やソースなどに幅広く使われています。右写真に飲料を想定した着色見本を示しましたが、このようにオレンジ系の色になります。変わったところでは、卵の卵黄をより黄色くするためにニワトリの餌に加えるということも行われています
(下の写真はキムチとチリソース)。
なお色合いを最もイメージしやすいのがキムチ漬けですが、これに補色の目的でトウガラシ色素の乳化品が使われることがあります。しかしながらキムチ漬けは通常酸性で、塩濃度も高いために乳化が壊れやすく、分離や沈殿が起きやすいという難点があります。右の写真はいずれもトウガラシ色素ですが、同じ塩濃度でも中央の色素が安定なのに対して左右の色素は上下で分離してしまっています。この問題を克服するために、着色料メーカーは乳化剤の種類や乳化の方法など様々な検討を重ねて、より安定性が高い製剤の開発を続けています。