天然着色料は動植物由来の色素ですが、とはいえ際限なく使用することはできません。そもそも食品添加物はその目的を達成するために必要最低限の量を使うということが前提になっています。また品質や鮮度が分からなくなるような使い方も認められていません。天然着色料の使用に関する基本的なルールとしては、第9版日本食品添加物公定書の「F 使用基準」に以下の記載があります。
『着色料(化学的合成品を除く。)
着色料は、こんぶ類、食肉、鮮魚介類(鯨肉を含む。)、茶、のり類、豆類、野菜及びわかめ類に使用してはならない。ただし、のり類に金を使用する場合はこの限りではない。』
ここで化学的合成品を除くとされているのは、いわゆる天然着色料に対する内容であることを示します。またここであげられている対象食品は基本的には生鮮食品であり、つまり着色料を添加することで生鮮食品の重要な品質の要素である鮮度が分からなくならないように、ごまかしの為に使用しないようにということで規定されています。
ちなみに使用基準は天然着色料だけにあるものではありません。天然着色料のみに使っているので、上記の使用基準のみ気を付けていればよいと思っていても、意外なところで法規制がかかることがあります。例えば以下に示したように、コチニール色素、ラック色素で色素の安定剤としてよく用いられているミョウバンについては、ミョウバンを構成しているアルミニウムが最終食品に含まれる限度量が決められています。この場合、ミョウバンが配合されている天然色素製剤を菓子や生菓子、パンなどに使う場合、各々に含まれるミョウバン(アルミニウム)の割合を合算した値が最終食品の中で規格内であることを確認する必要があります。このことは見落とされがちなことが多いので、詳細を以下に説明しました。
ミョウバンの使用基準は2018年に以下のように改正されました。具体的には対象食品と最大使用量が新たに追加されました。
『硫酸アルミニウムカリウム(ミョウバン、カリミョウバン、焼ミョウバン)の使用基準の改正(2018年11月30日)
「アルミニウムとして、菓子、生菓子、またはパンにあっては、その1kgにつき0.1g以下でないとならない」』
※硫酸アルミニウムアンモニウム(アンモニウムミョウバン)も対象
ミョウバンはベーキングパウダーなど膨張剤として、また漬物の色止め剤として、また魚介類の甘露煮などの荷崩れ防止(形状安定剤)として、また歯切れや歯ごたえをよくするための品質改良剤としてなど幅広く使われています。しかしながら小児がアルミニウム含有食品を摂取する量が科学的に許容されている量(正確にはPTWI(provisional tolerable weekly intake:暫定一週間摂取量))を上回ることが報告されました。それを受けて2018年に小児がよく摂取するとされるパンや菓子類を対象に新たに使用基準が設けられました。
天然着色料では、主に色素の安定化を目的としてコチニール色素、ラック色素に20~30%配合されていることがあります。この改正でこれらの天然着色料を使う際に何を気をつければよいのか考えてみます。
ミョウバンを20%含むコチニール色素製剤を例として考えます。
少々難しい話になりますが、ミョウバンに含まれるアルミニウムの量を求めるためにはモル(mol)という考え方を使います。
ミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)の化学式はAlK(SO4)2・nH2Oで、分子量は258.192g/mol(無水(焼きミョウバン)の場合。水和物の場合は値が変わります)になります。一方アルミニウムの元素記号はAlでモル質量は26.98g/molになります。
アルミニウムを0.1g以下にするとなると、
258.192g/mol:26.98g/mol = X g : 0.1g より、
アルミニウム0.1gを含むミョウバンの量は0.957gに相当します。
さて、ここで例として挙げたコチニール色素製剤にはミョウバンが20%含まれていますので、0.957g / 20% = 4.785g となります。これが最終食品1kgあたりに添加できるコチニール色素製剤の最大量になります。パーセントにすると4.785g/kg ≒ 0.47%となります。つまり、1kgのパンや菓子に対して、ミョウバンを20%含むコチニール色素製剤は最大で0.47%までしか使えないということになります。
更に注意点があります。もしパンやお菓子を作る際に、アルミニウムを含む他の食品添加物、例えばベーキングパウダーなどを使う場合は、各々に含まれるミョウバン(アルミニウム)の割合を合算した値が最終食品の中で1kgあたり0.1g以下という規格内であることを確認する必要があります。
参考資料:
第9版食品添加物公定書